大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1575号・昭26年(ネ)876号 判決

附帯控訴に基き原判決主文第二項中(1) (2) (3) (4) (5) (6) (8) (11)の各株券に関する部分を左の通り変更する。

右株券の引渡が不能なときは控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、その引渡不能の部分につき、右(1) の株券については一株二百三十九円、(2) の株券については一株九十二円、(3) の株券については一株七十五円、(4) の株券については一株七十六円、(5) の株券については一株六十円、(6) の株券については一株八十三円、(8) の株券については一株百三円、(11)の株券については一株百三十八円の割合によつて算出した金員を支払わなければならない。

当審における訴訟費用は全部控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

二、事  実

控訴(附帯被控訴)代理人(以下単に控訴代理人と称する)は「原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は被控訴人の負担とする、本件附帯控訴を棄却する」との判決を求め、被控訴(附帯控訴)代理人(以下単に被控訴代理人と称する)は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は被控訴代理人において控訴会社(附帯被控訴会社)(以下単に控訴会社と称する)が被控訴人(附帯控訴人)(以下単に被控訴人と称する)から預つた本件株券中(1) の旭化成株式会社株式百株分の株券の当審口頭弁論終結当時における一株当りの株価は金二百三十九円、(2) の関西ペイント株式会社新株式百株分の同上株価は金九十二円、(3) の日東商船株式会社株式百株分の同上株価は金七十五円、(4) の三楽酒造株式会社株式百株分の同上株価は金七十六円、(5) の東京光学株式会社株式百株分の同上株価は金六十円、(6) の日本石油株式会社株式百株分の同上株価は金八十三円、(8) の日平産業株式会社株式二百株分の同上株価は金百三円、(11)の帝国石油株式会社第二新株式二百株分の同上株価は金百三十八円であるから、控訴会社が右株券を返還することができない場合、これに代る損害賠償として右株価により算出した金員の支払を求める」と述べ、控訴代理人において「本件各株券の当審口頭弁論終結当時における株価が右被控訴人主張の通りであることは争わない」と述べた外はいずれも原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が有価証券の売買及びその取次をなすことを業とする会社であること、控訴会社が被控訴人の委託に基き昭和二十四年九月二十八日旭化成株式会社株式百株、日東商船株式会社株式百株、同年十月八日日本石油株式会社株式百株を買付け、当時その受渡を完了したこと、及び訴外正木芳夫が控訴会社の専属外務員であることは当事者間に争いがない。

而して原審並びに当審証人木村尹隆の供述によつて正木芳夫が作成したと認められる甲第一号証の一乃至四(いずれも預り証)その用紙が控訴会社のものであることについては当事者間に争いがなく、且つ原審証人木村尹隆の供述によつて正木芳夫及び控訴会社の当時の社員蒲生勇が作成したと認められる甲第二号証の一乃至五(いずれも売買報告書)と原審における原告本人田中貞の供述を綜合すると、前記正木芳夫は昭和二十四年九月下旬より同年十月上旬までの間五回に亘り、被控訴人から前掲株式を含め、被控訴人主張の(1) 乃至(15)の株式の買付の委託を受け、当時その買付をなしたが同年十月三日、同月十一日同月十七日及び同年十一月四日の四回に亘り、右買付に係る被控訴人主張の株券をそれぞれ期間の定めなく、被控訴人から寄託を受けたことが認められ右認定を左右するに足る証拠はない。

よつて右正木芳夫は右株券の寄託を受けるにつき、控訴会社を代理する権限があつたか否かについて判断するに、正木芳夫は前記のように控訴会社の専属外務員であるが専属外務員は証券取引法第五十六条に規定しているように、証券業者が自己の営業所以外の場所において、有価証券の募集若しくは売買又は有価証券市場における売買取引の委託の勧誘に従事させる証券業者の使用人に外ならないから、同条所定の事項の範囲内においては正木は控訴会社を代理する権限があるものと解すべきところ、原審鑑定人森泉恒四郎の鑑定の結果に徴すれば、証券業者は有価証券の売買及びその取次等に附随する業務として、取引関係が現に存し、又は将来生ずると予想せられる者より、有価証券の寄託を受けるものであることが認められ、しかも被控訴人と控訴会社との間に将来も取引関係を生ずると予想されることは原審における原告本人の供述により窺い得る被控訴人は医師の妻であり、本件の如き多数の株券の買付をなし得る資力を有する者で、正木芳夫は被控訴人の近所に下宿していた実直者の弟正木和夫の紹介により知り本件株式取引をなすに至つたこと、本件株券は被控訴人方では盗難の虞れある事情を話したところ、正木芳夫は控訴会社本店の金庫が厳重で安全であるからこれに保管して貰えば安心であるとのことであつたので、その言に従い控訴会社に寄託するに至つた事実に徴し容易に首肯し得るところであるから、正木芳夫は控訴会社の附随的業務行為として本件株券の寄託を受けることにつき控訴会社を代理する権限があるものといわざるを得ない。

従つて右正木芳夫の代理行為により、本人である控訴会社は前記の日時に期間の定めなく、被控訴人主張の(1) 乃至(15)の株券の寄託を受けたこととなるところ原審における原告本人の供述によれば、被控訴人が昭和二十五年五月上旬控訴会社に対し前記株券(但し被控訴人主張の(5) (6) (13)の株券及び(10)の株式三百株中百株分の株券は被控訴人の自認するようにすでに返還ずみである)の返還を請求したことが認められるから、控訴会社は被控訴人に対し右返還ずみのものを除く爾余の株券(原判決主文第一項(1) 乃至(12)記載のもの)を引き渡すべき義務があるものといわねばならない。

次に前記原判決主文第一項(1) 乃至(12)記載の株式のうち(7) (9) (10)(12)の株式の原審口頭弁論終結当時における一株の株価が被控訴人主張の通りであることは当事者間に争いなく、右株価がその後下落したことの主張立証がないから現在もなお右価格を保有しているものと認めるの外ないが、その余の(1) 乃至(6) (8) (11)の当審口頭弁論終結当時における株価が被控訴人主張の通りであることは控訴人の認めて争わないところであるから、もし右株券の引渡につき強制執行が不能のときは引渡不能の部分につき、控訴人は履行に代わる損害賠償として被控訴人に対し、右各単価によつて算出した金員を支払うべき義務あることも、また明らかである。

よつて被控訴人の本訴請求は附帯控訴による請求拡張部分をも含めて全部正当であるからこれを認容すべく、従つて控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し附帯控訴に基き原判決を一部変更すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小堀保 梅原松次郎 原増司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!